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のらねこ

昨日とさしたる変わりもなく。ちゃんと、あの白い窓枠に嵌るガラスを通って、太陽が顔をのぞかせていた。
寝具はすべて白で揃えてある。俺ではなくあいつの趣味だ。まずはリフォームが先だ、建物の構造的な意味で、と言った俺に、悠樹は少しずれた解釈をした。壁紙は白地に、うっすらと小花模様が描かれていて、思わず、「お前は女か」と問いただした覚えがある。「あんただけの女だよ」と言い返された日には、不覚だった。壁紙の模様を変えてどうする。
白いシーツは、陽光を反射し少し眩しくて、たくさんの皺をマーブル模様に刻み、昨日の行為のあと乱れたまま、掛け布団は床に丸まって落ちている。そのうえに、これもまたパジャマの肌蹴たこいつは、気息正しい寝息を立てていた。なにも知りませんというような、純粋無垢そうな表情をする割には、パジャマから覗く胸元には、たくさんのキスマークがある。雪白の肌は女でも羨ましいほどに滑らかで、俺はこの感触が好きだった。つるりとした肌はほの白く、まるで陶器のようだ。そこら辺の女よりも、ずっと綺麗という言葉が相応しくて、その、光の当たる柔らかな茶色がかった髪を、思わずかきまぜずにはいられなかった。

「おはよう」

声を掛ける。寝起きの自分の声は低く掠れた。もぞもぞと、隣の男は目を閉じたまま、細い腕でベッドをまさぐった。かけ布団を探している。潜り込むつもりなのだろう。まったく男らしくない。まあ、外見も、お世辞にも男らしいといえるものではなかったが。
挙句の果てに、男は俺にしがみついてきた。甘える作戦に出たらしい。そうはいかないぞとその手をひねりあげ、俺はもう一度言った。

「おい、起きろ、悠樹(ゆうき)。おはようございます、の時間だ」

うーん、と悠樹は何やら解読不能の念仏を唱えながら、顔をしかめた。眉根を寄せながら、もう一回ここになにをして、と朝から卑猥な寝言を口走る悠樹にしびれを切らし、俺はこいつをベッドから引きずり下ろすことにした。
ダブルベッドは、悠樹が居候を始めて以来、俺の実費で買ったものだ。もとから据え付けのシングルベッドがあり、そのほかにもうひとつシングルを買えばいいじゃないかという俺の提案に、居候の分際で駄々をこねまわったのは悠樹だった。
まったく俺は、こいつには甘い。……甘すぎる。
ただ、こんなやつにでもベタ惚れなのは事実だったし、そんな自分も仕方がないと、俺は半ば諦めていた。
大きくため息をつくと、今度は枕に顔を埋め始めた悠樹のほっそりとした両足首を掴んで、俺はずるずると引きずった。悠樹の体は見た目通りに全体的に華奢で軽く、しかしシーツに必死でしがみつくので、厄介である。

「やめてよ、俺のこと殺す気?」

枕に押し付けくぐもった、悠樹の非難する声が聞こえた。

「殺されたいのか、いろんな意味で」

俺が凄みを利かせて言うと、ようやく悠樹は重い瞼を開け、俺を振り返った。薄い紫のカーテンに囲まれた丸い窓からの日差しが悠樹にあたって、茶色い髪や透けるような肌が、まるで天使のようにきらめていた。まなじりのつりあがった大きい二重の瞳が、こちらをからかうように見つめている。

「いいよ、殺されてあげても」

不意に、悠樹はうっすらと微笑した。普段からは到底想像もできないような魅惑的な表情で、思わず俺は体を硬くする。うっかりと挑発に乗ってはいけない。

「冗談だ」

悠樹は猫のようなあくびをして、にゃーとでも云わんばかりにベッドの上でうつぶせに伸びをした。かと思うと、不意にベッドの上に立ち上がって、俺に倒れ込むようにして抱きついてくる。

「おはよう、琢巳(たくみ)」

悠樹の、独特の甘い匂いが風に乗って鼻腔を擽った。今度はそっと背中に手を伸ばすと、肩甲骨が浮いていた。脱いだ感じでは、あばら骨が透けているとか、そういうことはないんだがな。俺とは正反対に細い。ガリガリというよりは華奢という感じだった。

「琢巳、良い匂いするよ」

こいつは煙草の匂いが好きらしい。ヤニクラと呼ばれる状態を好む俺が吸っているのは、葉巻にも近い強い煙草だ。周囲の人間からも文字通り煙たがられるヘビースモーカーの俺に、率先して纏わりついてくるのは悠樹だけだった。まあ、かくいう悠樹自身も、一応は喫煙者なのだったが。

「いつものことだろ。
やっぱり朝はだるいな。ちょっと俺、シャワー浴びてくる」

纏わりついてくる悠樹はそのままに、俺はエアコンのスイッチを切って、寝室を出る。アンティーク調の家具で揃えられた、このマンションで唯一まともなキッチンで下ろしていくつもりだ。もともと寂しく一人用に借りた1LDKだから、二人で棲むには多少狭い。廊下を軋ませながら歩き、細工の施されたドアノブに手をかけ、回す。洒落た観葉植物の置かれたキッチンの木の椅子に無理やり座らせると、悠樹は行儀悪く床にずり落ちて仰向けになった。尻が痛いと一言。

「琢巳に、あーんなことやこーんなことをされちゃったからなあ」

悠樹の呟きを無視し、俺は問うた。悠樹の手にかかれば、なんだってちょっと淫縻な話になる。

「何か食わないのか?」

「食えないよ。なんか、今食ったら吐きそう」

冷たい焦げ茶色のフローリングに転がったまま、悠樹は恨めしげに言う。一年くらい一緒に暮らした結果、朝は弱いらしいことがわかった。絨毯も何も敷いていないから、これではあんまりじゃないかと、流石の俺も一応提案する。

「リビングにソファがあるけど、」

「そういうことじゃなくてさ。あ、もしかして今更純情ぶってるの?」

「そんなことあるわけないだろ。何だ、今更って」

悠樹はにやにやしていた。
ようやく悠樹の魂胆に気付いて、俺は馬鹿らしくなって取り合うのをやめ、駄々をこねるまえに猫を床に放置したまま、バスルームへと向かった。一緒に風呂に入ろうと誘え、と、要はそういうことだ。耐震化なんてものにはまったく縁のない、老朽化したマンションは歩くとところどころでミシミシと不吉に軋み、ドアの一つや二つが開きにくいことなど日常茶飯事だ。それが悠樹なんて抱えたものだから、人様の家に勝手に住みつく野良猫は、すぐに繊細な我が家を破壊する。
ただでさえ狭いバスルームに野郎が二人。冗談じゃない。

ようやく追い払ったと思って、俺はバスルームの扉を開ける。正面には長方形の細長い鏡があり、一応はちゃんと磨かれている。バスタブは柄にもなくネコ足で、一度女を部屋に呼んだとき、可愛いなどとはしゃいでいたような気がする。しかし鏡に映ったものを見て、俺は絶句した。

「お前、いつの間に……」

日焼けした逞しい体躯の後ろに、こっそり隠れるようにして悠樹が立っていた。白い肌がちらちらと、扇情的に見え隠れしていた。胸もとや、あちこちに広がるキスマークも、俺がつけたものとはいえ、いじらしい。
後ろを振り返り、まじまじと眺めると、悠樹は柄にもなく照れたように俯く。細くて白い、男なのか女なのか、もはや性別=悠樹という式が成り立ってしまうような、兎に角彼は中性的な体をしている。自分はそちらの人間ではないと思っていたが、この淫蕩な体は俺を虜にしてしまったらしい。

「あんまり見ないで、」

「昨日散々見ただろ」

「意地悪」

肌の触れあう感触は心地よかった。俺がふざけて悠樹の頭からシャワーの大雨を降らせると、唐突に挑発的な眸で見上げられて、俺は目のやり場に困ったまま前を向く。濡れて頬や首筋に張り付いた髪は、想像以上に蠱惑的だった。
悠樹が勝手に俺の背中に石鹸を滑らせていた。躊躇いなく触れてくる細い指先は、どうしても俺の理性を切り離そうとする。決して不快ではないがくすぐったく、必死で身を捩るのを堪えていた。ふと、前の奴にもこいつはこんなことをしていたのだろうか、と、胸がちくりと痛んだ。そう考えてしまうと、こんなやつだけれど、狂いそうなくらい愛おしかった。
悪戯っ子のような笑みを浮かべて、石鹸で遊ぶ悠樹の手頸を掴むと、そっとバスタブのモスグリーンの淵に座らせた。石鹸で滑って転ばないように、というこまやかな俺の配慮からである。
不思議そうに見上げる悠樹が、むしょうに可愛くて、いじらしくて、俺は強引に、噛みつくように唇を奪う。唇を舌で割ると、悠樹も貪欲に求めてきた。

「琢巳……」

濡れそぼった小さな唇は、口角がきゅっと上がって朱色だった。その妖艶な口許から目を離せないまま、俺は低い声で悠樹の耳元に唇を寄せて囁く。

「どこへも行くなよ、悠樹」

どこへも、行っちゃだめだ。ずっと、ずっとずっと、俺の傍にいろ。
言ってから、じわり、と胸が熱くなる。ぐっと、喉まで愛しさがこみ上げた。耳もとで、俺自身の言葉が、ぐるぐると渦巻いている。何かを雁字搦めにするかのように。言葉はきっと、悠樹を縛れない。縛られるのは俺自身のほうなのだ。

ずっと言えなかった本音だった。心からの、俺の一番の願いだった。悠樹さえいれば、本当に俺はほかに何もいらない。それほどまでに溺れていた。悠樹は底なしの沼のようだ。
けれど、行くな、と命令は出来なかった。

「あんたらしくないね」

そうだ、俺らしくない。おまえがこんな風に、俺の心をかき乱すんだ。

そう言って、悠樹は肯定とも否定ともとれないような笑みを浮かべたまま、俺に石鹸で滑る体を預けてきた。ぬるぬると滑る肌から、体温を感じる。どくり、どくりと、触れあう胸の鼓動が聴こえてくる。こんなに細い体で、悠樹は生きているのだ。
どこへも行かないと、約束して欲しかった。ずっと俺と共にいると、誓ってほしかった。
けれどそれは、やっぱり俺のエゴなのだろう。俺も一応大人だ。いや、大人という言葉にすり替えて、本当は怖いだけなのかもしれない。行くなと言って、もしこいつに拒絶されたら、と思ったら、空恐ろしくなった。きっと立ち直れないだろう。

「舐めていい?」

答えを待たずに悠樹は風呂場のタイルに膝立ちし、俺の下半身の前に屈みこむと、そっと唇を添えた。先端にちろりと舌を這わせ、不意に咥え込む。その技巧は果てしない。ポイントをついて、ずぶりと快楽へと足を引きずりこんでいく。どう考えても、男に調教でもされたとしか思えないテクニックだった。

「おまえの口のなか、あっついな」

複雑な心境で俺が呟くと、悠樹はしゃぶりながら、「そう?」と言って微笑んだ。卑猥な水音と、悠樹の柔らかく温かい口腔内が、俺の理性を溶かしていく。茶色く柔らかい髪に覆われた悠樹の頭が上下する様は、ちょっとシュールで、けれどなんだか淫らな感じがする。気を抜いたら、ふっと飛んでしまいそうだ。

「いいよ、悠樹……そこ」

悠樹の小さな八重歯が先端に当たって、不覚にもびくりと腰が浮いてしまった。果てが近い。とはいっても、悠樹の口でいかされるのは癪なので、俺は切羽詰まった表情で、こいつの肩を軽く押した。

「お前のなかでいきたい」

先走りで口を濡らした悠樹が、嬉しそうに俺を見上げた。いいよ、と悠樹は、すかさず俺の上にまたがってくる。細い脚だ、と思う。太腿なんて名称なのに、こいつの脚は、というか脚だけに限らないが、とにかく細い。女は駄目だと、悠樹は言っていたような気がする。
指で自分の後孔を広げながら、悠樹は俺の屹立のうえに慎重に腰をおろしていく。

「あ……っ、」

悠樹の吐息が熱く、俺の耳もとにかかった。俺の昂りが全部入ると、悠樹はきつく抱きついてくる。

「琢巳の、おっきいね」

少しだけ苦しそうに肩を喘がせながら、悠樹はにやりと笑った。
その白くて繊細な体を抱きしめかえしてやると、中がきゅっと締まった。
それを合図に、俺は軽く悠樹を揺さぶってみる。悠樹は眉根を寄せて、小さく甘い声をあげた。

「だ、だめ、琢巳っ」

悠樹の体を、冷たいタイルの壁に押し付ける。そのまま激しく貫くと、俺の背に回された悠樹の手の爪が、食い込んだ。

「なにがダメ?」

あえて意地悪く尋ねると、悠樹は顔を火照らせて、ごにょごにょと俺の耳元に囁く。首筋までさくら色に染めた悠樹がとにかく可愛くて、それだけで俺は満足だった。

追記(反転)
ちょっと終わりのほうが中途半端なのは・・・仕様です(笑)

悪戯に~が連載終了したら、この短編に関連する長編を連載する予定です。

短編は何が楽かって完結させなきゃいけないというプレッシャーがないから!!

楽しみながら書いてます


ちなみに・・・余談ですが、
こちらを読んで「まほろ~」(三浦しをん先生)が思いついた方、すみません。

まほろ~を読了直後だったので、若干の行天くんがのりうつっていたかもしれないです。

彼らをカップリングしたらいろいろと最強なんじゃないかと私は踏んでいます。

三浦先生はそれで絶対遊んでいると思います。

ああいう感じは萌えます。共感してくださった方、よかったら拍手頂けると嬉しいです(笑)



これからもまったりペースですがお付き合いいただけたら光栄です!


また、ご意見・ご要望・批評などございましたらいただけるとお勉強になります。

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SSシリーズ 欲しいへ続く
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